“土”博士 高野氏 × フジモト代表 藤原。
業界の未来像を語る(前編) 「クリーン」な業界へ ─

取材・制作:CKプロダクション株式会社  記事:冨松 智陽

2022年、(株)フジモトは「土博士」と呼ばれる業界の識者・高野昇氏を顧問に迎えた。「業界の未来像を語る」対談の前編では、地方から業界改革に挑むフジモトの代表・藤原氏と高野氏の出会いから、業界の現状や共通の課題感、今後への期待までを語り合ってもらった。

建設発生土を考え続ける「土博士」高野氏との出会い

──土博士”と呼ばれている高野さんですが、まずはこれまでの略歴をお聞かせください。

高野 “土”をテーマとして人生を歩み、半世紀近くになりました。大卒後、技術系システム開発会社に5年間勤務後、学部生の時、地下水研究を手伝っていた(社)日本能率協会の総合研究所(現、㈱日本能率協会総合研究所)へ転職。ここに34年在籍。建設現場から出るコンクリートやアスファルトなどの建設副産物(建設廃棄物)、そして建設発生土(残土)のリサイクルを促進するためのコンサルティング業務を担当していました。今で言うSDGsの実現に向け、延々と取り組んできたわけです。

藤原 中でも印象深いお仕事は?

高野 主に霞ヶ関の旧建設省、国土交通省、そして47都道府県と関わり、法律や施策の立案をサポートしていました。なかでも「建設リサイクル法(H12施行)」の原案を作り世に送り出せたのは、やり甲斐がありましたね。土に関しては〈東京都建設発生土再利用センター〉の開設。ここは土質改良プラントとストックヤード、それに情報センターなどの機能が集約された世界初の施設となったのですが、そのコンセプトや基本計画の作成を担当しました。

藤原 そのご活躍あって、日本では「土に関することならこの人に相談を」と信頼されていらっしゃるんですよね。

左:フジモト代表、藤原裕士。右:(一社)全国建設発生土リサイクル協会専務理事で、現在(株)フジモトの顧問も務める高野昇氏。リモートにて取材を行った

── 現在は〈先端建設技術センター〉でご活躍ですね。

高野 はい。引き続き土のリサイクル問題に携わり、10年近くが経ちます。ちなみに前職を辞めた後、63歳から大学院に通い、修士号を取得したんですよ。本業が忙しくなってしまって博士号まで取れなかったのが心残り。取れていたら名実ともに“博士”と呼んでいただけたのですが(笑)。

藤原 その余裕がないくらい業界から必要とされ、尽力してこられたということでしょう!

── 高野さんと藤原さんの出会いのきっかけは何だったのでしょうか?

藤原 2021年春に発足した〈全国建設発生土リサイクル協会〉に加盟したところ、その専務理事が高野さんだったんです。まだネガティブなイメージがつきまとう業界を変えていくため、私たちの会社はどうあるべきなのか? 何をすべきなのか? 知恵をお借りできないかと色々ご相談する中で、高野さんに当社の顧問を打診、ご快諾いただきました

高野 協会でお会いした後、フジモトさんの事業所を拝見して、本当に素晴らしいと思ったんです! あのスケールで、しかも周辺住民にも理解された上で処分場を運営しているのは国内ではものすごくレアケース。一部の業者によって不正が働かれてきたこの業界において、フジモトさんのようにクリーンな企業は私が知る限り一握りしかありません。藤原さんの「業界をクリーンなイメージに変えたい」という思いにも共感しました。

「熱海」の悲劇が起こるまで、なぜ法整備が進まなかったのか

── 2023年5月に「盛土規制法」「資源有効利用促進法省令改正」が施行されましたが、それ以前の業界はどんな状況だったのでしょうか?

高野 今回の法律が出来るまでは、各業者が属する県や市町村の条例に則っていました。法律とは、全国一律で規制する部分と、地方がそれぞれの環境を踏まえて規制する部分の両輪あって機能するのが基本。ところが土の業界は、歴史的に自治体の条例ベースのみだったんです。ちなみに自治体で初めて盛土規制を出したのは、千葉県でした。発端は市川市で起きた事故。重金属に汚染された工場跡地の土が盛土に使われた結果、飲み水が汚染されてしまい、汚染された土での宅地造成が禁止されたという経緯。

藤原 …ということは、盛土による土砂崩落を防ぐ目的ではなかったんですね。

高野 そう。同じ「盛土規制」という名目でも中身は自治体によってバラバラ。結果として法の抜け穴ができ“不正”の温床になっていたのだと思います。

藤原 岡山市には盛土規制の条例があります。お隣の広島には県条例で同様の規制がありますね。

高野 県か市町村か、またテーマも環境汚染から災害対応までバラバラ、だったんですよ。全国初の切土・盛土による土砂崩落を防止する県条例は、静岡県がつくったんです。なのに皮肉にも、熱海市で20名以上もが亡くなる甚大な土石流が発生してしまった。条例を取り締まるシステムが弱かったのだと思います。

藤原 県域を超える事業者もいますし、自治体の対応にも限界があるのではないでしょうか。

高野 ええ。実は熱海以前から、全国各地で盛土の崩落による事故が後を絶たず、ようやく国会でも法整備の機運が高まっていたんです。しかし悲しいことに、熱海には間に合わなかった。多くの人命が失われないと抜本的な新しい法律ができない…残念ながらいつもそうなんです。

“残土”のトレーサビリティは必須の時代へ

── 悲惨な事故を二度と起こさないために、新しい「盛土規制法」「資源有効利用促進法省令改正」で安全が担保されるのはとても良いことですね。

藤原 特に、土のトレーサビリティを確保している点が大きな変化の一つだと感じました。

高野 産業廃棄物の場合は「マニフェスト」の提出が法律で義務付けられておりトレーサビリティが追跡されていますが、“土は廃棄物ではない”という考えから、残土の業界ではマニフェストが義務付けられてこなかった。土をどこで採取し、誰が、どこに運んでいくのか。元請業者に対して、建設発生土搬出先の盛土規制法等許可の事前確認、事前確認された搬出先への運搬記録である「土砂受領書等」の確認義務を今回「資源有効利用促進法省令改正」で「必須」と定めたことで、不正な業者は淘汰されていくでしょう。


藤原 そのためのシステムを普及させることも大事ですよね。

── 高野さんは〈先端建設技術センター〉で「SSトレースシステム」の開発に携わっていらっしゃいますが、これが役立ちそうですね。

高野 「SSトレースシステム」は、土を運搬するトラックにICカードを携帯してもらい、そのカードをスマートフォンにタッチすることで、搬出元と搬出先の位置情報がデータベース化できるシステム。新しい法律に適応する新しいバージョンが、近日中にリリースされます。元々、大手ゼネコンなどは自社でこのシステムを開発して、建設発生土のトレーサビリティを記録していたのですが。中小規模の事業者には自社で開発する余力はなかなかありませんよね。そこで、シンプルな機能で使いやすく、しかも安く利用できるシステムを研究開発しました。

建設発生土のトレーサビリティシステム「SSトレースシステム」



画像引用:一般財団法人 先端建設技術センターWEBサイトより

藤原 導入しやすいので、これを「全てのトラックに義務付けできればあっという間にトレーサビリティが確立できる」と思いました。今後は「土質改良プラント認証事業」も、もっと注目されるべきではないでしょうか?

高野 今、国を挙げて建設発生土のリサイクル率を高めようとしています。一つの現場で出た土は同じ場所で再利用できるのがいちばん良いのですが、使いきれない土も多く、場外へ搬出されています。また、地球温暖化の影響で災害土砂も増えています。こうした土の品質を改良し、新しい現場で再利用するためには、土質改良のプロセスや土そのものの品質がしっかりしたプラントが不可欠ですが、その品質の確かさを第三者認証するシステムが、〈先端建設技術センター〉の「土質改良プラント認証事業」です。発生土業界版のISO認証システムと捉えていただければ分かりやすいと思います。

それから「資源有効利用促進法省令改正」でも、「ストックヤード運営事業者登録制度」が始まりました。登録事業者が土砂の搬入、搬出を行うたびに受領書を発行すると、元請業者はそれを自社のトレーサビリティの証明にできます。逆に非登録事業者に委託する場合は元請業者が最初から最後までトレーサビリティを確認しなければならないので、負担となります。フジモトさんはすでに登録していただいています。

藤原 はい、さっそく登録しました。中国地整管内で1番目の登録でした。

── 元請業者の心理的には、「適正な業者に発注したい」と考えますよね。

高野 ですよね。そのため建設発生土リサイクル協会では、積極的に登録していただけるよう呼びかけています。もちろん義務ではありませんが、こうした認証制度や法律に則らない事業者は、事業継続が難しくなっていく可能性が高いと思います。

藤原 業界全体が「クリーン」なイメージへと変わっていく契機が訪れています。フジモトとしても高野さんに指導を仰ぎながら、地域やステークホルダーに信頼していただける事業者になれるよう、積極的に取り組んでいきたいと思います。

次回、「業界の未来像を語る」対談の後編では、フジモトが進める事業のビジョンとその可能性、さらには業界の未来について話を進めていく。

Profile / 高野 昇(たかの のぼる)
(株)日本能率協会総合研究所で、官公庁や地方自治体を相手に建設リサイクル問題のコンサルティング業務を担当。建設リサイクル法(H12施行)、建設リサイクル推進計画の立案、東京都建設発生土再利用センターの基本計画などに携わった。公共部門担当取締役退職後、(一財)先端建設技術センターの企画部タスクマネージャーとして活躍。SSトレースシステム、土質改良プラントの第三者認証制度の開発、2019年「建設リサイクル国際シンポジウム」などを実現し、建設発生土業界の改革に精力的に取り組んでいる。(一社)全国建設発生土リサイクル協会専務理事。2022年(株)フジモトの顧問に就任。

「F-LOG」とは─

土と人にまつわるトピックを事実に基づきつつ、時に鋭く、時にユルくお届けする株式会社フジモトの情報発信メディア。「Future(未来)」「Flexible(柔軟)」「Funky(クセ強)」をコンセプトに、その頭文字をとって「F-LOG」と命名。