業界変革へ。
「盛土規制法」施行で”何”が変わる?

取材・制作:CKプロダクション株式会社  記事:湊 慎太朗/冨松 智陽
盛り土規制法

2023年、建設発生土をとりまく業界に変革の波がやってくる─。2023年5月26日に「盛土規制法」が施行され、様々な問題を抱えていた“残土”業界が本格的な健全化へと舵を切る。同日、併せて「改正・資源有効利用促進法」も施行され、建設発生土に対して厳格な管理が求められるようになる。これまで法の網をかいくぐって不正を行っていた事業者はもちろん、クリーンにビジネスを営んできた事業者にも影響が及ぶことになる。

事業開始当初から法令に則り公正な建設発生土の受け入れ事業を展開してきた株式会社フジモト。代表の藤原は今回の法施行が業界に与える影響をこう語る。

「これまでいわゆる“残土”の処分にまつわるルールは、様々な法律や条例が絡み合い、複雑で曖昧なものとなっていました。そうした隙だらけのルールが不正事業者の温床となり、危険な盛土や残土の不法投棄といった問題を引き起こしていました。今回の法施行で建設発生土にトレーサビリティ(追跡可能性)が求めらるようになり、さらに不正に対する罰則も強化され、今後は不正やずさんな管理を行う事業者は市場から退場を迫られることになるでしょう。」

“残土”に関わる業界の健全化が加速すると予測する一方で、これまでクリーンに事業を営んできた事業者も注意が必要だという。

「法律を管轄する国土交通省などが今回の法改正の周知に努めていますが、まだすべきことを把握できていない事業者や、そもそも情報をキャッチできていない事業者がいます。自治体の取り組みにも温度差があることから、現場では必要な手続きがスムーズに進まないなど、混乱をきたす可能性もありそうです。

では、新たな法律で何が変わるのか。建設工事関連の事業者の視点で要点をまとめた。

《盛土規制法》等による新たな措置》

  • ● 厳格な盛土許可制
  • 不法盛土の監視強化(許可地一覧の公表・現地掲示)
  • ● 盛土許可違反の建設業者トラック運送事業者等への処分

《改正・資源有効利用促進法》による「計画制度」の強化》

元請業者は、改正前資源有効利用促進法の時点で搬出先(他の工事現場、残土処分場等)等を記載した再生資源利用促進“計画書”の作成・保存を義務付けられている

  • ● 計画書※1の作成対象工事の拡大(土砂1,000㎥→500㎥)
  • ● 計画書の保存期間の延長(1年→5年)
  • ● 計画内容の発注者への報告建設現場への掲示を義務化
  • ● 搬出先(発生土処分場等)の盛土規制法の許可の事前確認
  • ● 搬出後の土砂受領書※2等の確認を義務化

※1【再生資源利用促進計画書】(参考)

再生資源利用促進計画書

※2【土砂受領書】(参考)

土砂受領書

「盛土規制法」「改正・資源有効利用促進法」、この2つの法律が施行されたことによって、主に土を出す側の発注者や元請企業(ゼネコン、ディベロッパー、国や都道府県、建設・土木工事業者)へ対応が求められるようになった。また、関連する運搬業者やフジモトのような受入先企業にも対応と責任が発生する。

次項ではそれぞれの法律の概要や、施行に至った背景を整理した。

盛り土規制法─
「バラバラ・スカスカ」から「一網打尽」へ。

盛土とは、宅地を造成するとき斜面に土を盛って平らな土地をつくったり、建設発生土の受入地が土を堆積すること。盛り土規制法はこの盛土にまつわるルールだが、これまで宅地をつくる場合は「宅地造成等規制法」、農地をつくる場合は「農地法」、森林を開発する場合は「森林法」が適用され、用途や目的によって別々の法律で規制されていた。しかも、各法律で規制されていない細かなルール(たとえば、汚染された土で宅地造成をしてはいけないなど)に関しては、都道府県や市町村がそれぞれの地質や環境をふまえた条例を後付けして規制されていた状態だった。継ぎはぎだらけの規制には隙が多く、悪質事業者による危険な盛土を許す要因となっていた。

5月26日に施行された盛土規制法の正式名は「宅地造成及び特定盛土等規制法」。旧宅地造成等規制法を抜本的に改正したもので、今後は宅地、森林、農地などの用途にかかわらず、盛土が全国一律の基準で包括的に規制されることになった。

▽国土交通省「盛土規制法」関連ページ
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000076.html

資源有効利用促進法─
建設発生土も産業廃棄物並みの管理が必要に。

かねてより国は発注者や元請業者に対し、公共工事等で発生した土の搬出先を明らかにすることや処分費の積算への計上の徹底を求めてきた。しかし、そもそも土は「資源」として扱われてきた歴史があり、産業廃棄物のマニフェストのような仕組みもなく、トレーサビリティ(追跡可能性)が担保されてこなかった。そのため、ずさんな管理を行う事業者の手に渡った場合、どこへどれだけの量が搬出されたのか曖昧なままビジネスが行われ、それを規制する法律も存在しなかったことから抑止も効かず、一部で無法状態となっていた。

これを是正するのが「改正・資源有効利用促進法」だ。2022年1月の第1弾改正に続き、発生土の搬出先が盛土規制法の許可地であることの確認や、搬出先が元請け企業から建設発生土の受け入れを行った際などに受領書を交付することなどが定められた。公共事業以外で対象となる工事の範囲も500㎥まで拡がるなど、多くの建設工事で対応が必要になってくる。

▽国土交通省 改正「資源有効利用促進法」関連ページ
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001598222.pdf

「盛土の許可取得」「土砂受領書の発行」に対応。
フジモトは選ばれつづける受け入れ先へ。

フジモトはいち早くこの度の法改正に対応し、盛土の許可取得はもちろん、土砂受領書の発行を行える体制を整えた。さらにフジモトではこうした動きに先んじて、受入場の全体像の360°映像や、これまで取得した各種許可証などをWEBサイトに常時掲載するなど、業界でも高い水準の公正性と透明性を意識して事業運営を行っている。

「我々のような受け入れ先においても、許可地をもっていない、あるいは受領書が発行できない企業は事業継続が難しくなっていきます。業界としては混乱が起きる可能性はありますが、フジモトはその先を見据えています。例えばリサイクルできる土の呼び名を“残土”ではなく“建設発生土”として定着させることや、この仕事をひとつの“業”として確立させること、ひいては社会的イメージも向上させ、いつかこの仕事に携わるすべての人が胸を張れるような業界にしていきたいと考えています。そのために自社から率先して行動しています。」

自社のミッションをそう語る藤原だが、思いを形にするためには専門家の知恵も必要だ。見識を深めようと模索する中で藤原は“土博士”と呼ばれる高野昇氏(全国建設発生土リサイクル協会専務理事 / 先端建設技術センター企画部参事役)と出会った。次回のコラムでは、現在、フジモトの顧問に就任している高野氏ともに、業界の未来像について話を聞いていく。

「F-LOG」とは─

土と人にまつわるトピックを事実に基づきつつ、時に鋭く、時にユルくお届けする株式会社フジモトの情報発信メディア。「Future(未来)」「Flexible(柔軟)」「Funky(クセ強)」をコンセプトに、その頭文字をとって「F-LOG」と命名。