“土”博士 高野氏 × フジモト代表 藤原。 業界の未来像を語る(後編) フジモトの価値と可能性 ─

取材・制作:CKプロダクション株式会社  記事:冨松 智陽

「業界の未来像を語る」対談の後編(前編はこちら)では、建設発生土や土のリサイクルに精通する高野氏から見たフジモトの価値と可能性、そしてふたりが共有する業界の未来像をテーマにお届けする。

フジモトの受入地を見て「スイスの風景を思い出した」

── フジモトの事業所を視察された感想は?

高野 フジモトさんは山の谷間を活用した日本最大クラス約20haに及ぶ建設発生土の受入地をお持ちですが、それを初めて拝見した時、スイスの産業廃棄物処分場で目にした素晴らしい光景が頭に浮かんだんです。あまりにもスイスで見たのと同じでしたから、ここは日本か?!と一瞬、思ったほど。スイスはご存知の通りアルプスの山々に覆われた国ですので、建設発生土や産業廃棄物の処理場を山の谷間につくる必要があります。自治体がその建設・管理を担っているのですが、担当する職員や責任者には地質学の博士号をもった識者が選ばれていますし、建設の際には住民投票で可否を問うんです。

藤原裕士・高野昇対談
左:フジモト代表、藤原裕士。右:(一社)全国建設発生土リサイクル協会専務理事で、現在(株)フジモトの顧問も務める高野昇氏。リモートにて取材を行った

藤原 地域住民の方々が安心して暮らし続けられる制度が整っているんですね。

高野 そうなんです。藤原さんも、事業所をつくる際にはまず地域の安全を考えていらっしゃいますし、努力されて土地の所有者や周辺住民の方々からきちんと理解を得られたと伺いました。その点もスイスを彷彿とさせますし、全国でフジモトさんレベルの事業所はそうそう、ほかにないと思います。

株式会社フジモトの事業所
(株)フジモトの事業所(事業所のご案内

藤原 ありがとうございます。地元の方々のご理解を得ることは大事なことでしたが、難しさも感じました。

高野 2023年5月施行の「盛土規制法」には、規制区域内で盛土や切土を行う際、土地所有者の同意が必須と明記されました。土地所有者にも万が一事故が起きた時の責務が課されたわけです。また、千葉県君津市、富津市の「残土条例」では、事業区域面積が3,000㎡以上の場合、事業区域から300m以内の世帯の8割以上の住民の同意を求めています。

藤原 規制がどんどん厳格化されていますね。

高野 はい。結局は、危険をもたらす開発をシャットアウトする動きですよね。適正な事業運営ができる企業でなければ、今後は建設発生土の受入ができなくなるでしょう

増え続ける建設発生土と急がれる「土のリサイクル」

藤原 国は建設発生土のリサイクル率を高めようとしていますよね? リサイクルを適正に行える事業者の確保も急務だと思うのですが。

高野 そのためのシステムづくりが私のライフワークでもあります。SDGsの観点からはどんな廃棄物もリサイクルするのが理想です。ところが現実的には難しく、最終処理場が必要になる。そもそもゴミではなく資源だと定義されている土においても需給がとてもアンバランスです。発生した土はその現場で再利用するという基本ルールが徹底されてきたのですが、全国的に埋め立てる場所が少なくなってきたことや、地下開発工事が増えてきたこと、災害が多発していること、などさまざまな理由から土の需給バランスが崩れてきたのです。そうして土が余るということで、世の中的にはフジモトさんのような受入地を確保しておかなければならなくなってきているのです。

藤原 建設発生土が増え、岡山県では行政が運営する埋立地がすでに満杯になってきています。自治体のキャパシティにも限界がありますから、民間の私たち事業者も建設発生土の受入に貢献できればと。とはいえもちろん、土のリサイクル率は高めたいので、当社では受け入れた土を粒度調整し、埋戻し材や盛土材として販売する取り組みもしています。2023年からは、建設現場で発生する土砂の仮置き場として工期調整に活用いただけるストックヤードも稼働を始めました。「受入」「土質改良プラント」「ストックヤード」の3つの役割を担いながら、土を“捨てる”場所ではなく“有効活用”できる場所になることが目標です。

フジモトのストックヤード施設
(株)フジモトが令和5年 2023年に稼働させたストックヤード事業所(ストックヤードサービスについて

高野 2023年5月の「盛土規制法」「資源有効利用促進法省令改正」が追い風となって、土の適正利用が進みつつあり、フジモトさんのような事業者はますます行政をはじめ大手ゼネコンなどからも求められる存在になると思います。また、最近は東北や九州地方などで土が足りておらず、逆に近畿地方は多い、というような地域格差も生じています。全国統一的な法律ができたことで、地方ごとに需給されていた土が、今よりも盛んに県境を超えて離れた地域まで運ばれる時代もやってくるでしょう。

── 実際、法改正後に変化はありましたか?

藤原 問合せが増えているのは確かで、関心が高まっていることを感じています。

高野 厳格なルールが設けられる中、今後フジモトさん規模の事業所を新規開設するにはさまざまな条件をクリアしたり、許可を得たりしなければならず、開設は容易ではないでしょう。ですが、実践してくれているフジモトさんをモデルに、後に続いてくれる企業が増えると嬉しいですね。

2050年までの「業」成立を目指して

── では今後、業界の担い手を確保するためには何が必要でしょうか?

高野 とにかく、業界を良いイメージに変えていくこと! そのためにも魅力ある「業」として成立させることが全国建設発生土リサイクル協会のビジョンでもあります。前例となるのが「解体工事業」。2000年に建設リサイクル法が施行された後に建築廃棄物の不法投棄問題が是正され、16年かけてようやく解体工事業という業種が成立しました。建設発生土に関わる仕事も同じように、いずれ法的に「土質改良業」「ストックヤード業」などという名前の「業種」としてその存在価値を認められたい。業として成立しなければ、担い手となる若者に目指してもらえないどころか、「どんな業種ですか?」と聞かれても自信をもって答えられないままだと思うのです。

藤原 確かに、私の子どもが「お父さん何の仕事をしているの?」と聞かれても、建設関係の仕事としか言えないと思います。もっと胸を張って言える「業」にしたいです。

高野 目標として、2050年までには実現させたいですね。

藤原 …と言わず10年、20年前倒しで実現できるよう、まずは自分たちの足元から適正な事業を展開し続けていきたいと思います。

高野 フジモトさんのように品質を担保できる事業所が増えることは、社会からその価値を評価される業界になるにあたって不可欠なことです。

── ほかに、業界の未来を見据えて思い描いているビジョンはありますか?

高野 「土をリサイクルする仕事がある」ということを、未来を担う子どもたちに知ってもらえたら嬉しいと思っています。土木・建築業界では今、深刻な人手不足にあえいでいます。大学の土木学科でも学生が減ってきているとか。そんな危機感から、土木学会が3年ごとに開催している「未来の土木コンテスト」が良い事例だと感じています。将来どんな世界にしたいか、小学生に自由に絵を描いてもらい、それを土木技術者が実現するために土木技術者が真剣に検討するんです。おこがましいのですが、土木学会100周年記念プロジェクトの1つとして、私がコンテスト創設を提案しました。

土木学会主催の「未来の土木コンテスト2022」最終選考会・表彰式の様子

藤原 どんなアイデアがありましたか?!

高野 ゴミを出さない社会とか災害に強い日本とか、環境に優しい世界とか、子ども目線で世の中をよくしようというアイデアがたくさん応募されていて、発表を聞きながら涙がでそうでした。こうした機会を通じて、土木の世界に触れてもらうことの大切さを痛感しました。フジモトさんの事業所も、ぜひ子どもたちに見てもらいたいですね。どれだけ言葉で説明するよりも、本物を一度見ることのインパクトはすごいと思うんです。

藤原 おっしゃる通りですね! 普段から、現場を見て安心していただきたいという思いがあり地元の方には事業所をオープンにしていまして、いつでも見学にきてくださいとお話ししているんです。地元の小学生を招待するような活動もしてみたいですね。

高野 きっと「おお!なんだこれは!」って、私のように感動してくれますよ。

藤原 いずれ、現在稼働している建設発生土の受入地が満杯になれば、跡地の再利用方を考える時期がやって来ます。その時、未来の土木コンテストのように、小学生や地域の方々にどんな施設があったらいいと思うかアイデアをもらえたらすごく素敵だと、ヒントをいただきました

高野 産廃処理場の跡地がサッカー場になった事例のように、建設発生土の業界では受入跡地が再活用された例がまだなく、地元に開放されていません。それも含めて、フジモトさんには土活用ビジネスのパイオニアになってほしいと期待しています。そうなれる可能性を十分に秘めていると思いますから。

藤原 ぜひ、そうなれるよう頑張りたいと思います。

Profile / 高野 昇(たかの のぼる)
(株)日本能率協会総合研究所で、官公庁や地方自治体を相手に建設リサイクル問題のコンサルティング業務を担当。建設リサイクル法(H12施行)、建設リサイクル推進計画の立案、東京都建設発生土再利用センターの基本計画などに携わった。公共部門担当取締役退職後、(一財)先端建設技術センターの企画部タスクマネージャーとして活躍。SSトレースシステム、土質改良プラントの第三者認証制度の開発、2019年「建設リサイクル国際シンポジウム」などを実現し、建設発生土業界の改革に精力的に取り組んでいる。(一社)全国建設発生土リサイクル協会専務理事。2022年(株)フジモトの顧問に就任。

「F-LOG」とは─

土と人にまつわるトピックを事実に基づきつつ、時に鋭く、時にユルくお届けする株式会社フジモトの情報発信メディア。「Future(未来)」「Flexible(柔軟)」「Funky(クセ強)」をコンセプトに、その頭文字をとって「F-LOG」と命名。